コラム No. 46

うざい

Ridual開発陣の中に、「うざい」という言葉を使うメンバがいた。私は彼女のその言葉をかなり信頼していた。

うざい

(主に若者語で)面倒だ。うっとうしい。「うぜえ」とも。〔「うざったい」の略からか〕

三省堂「デイリー 新語辞典」より

 

うざった・い

(形)俗に、ごちゃごちゃしていて煩わしいさまをいう。うざっこい。

三省堂「大辞林 第二版」より

自分が気に入ったサイトやおかしいと思ったサイト、あとは開発中のRidualのインターフェース…、様々なモノを見てもらって、評してもらう。彼女が良いと思った時はそれなりに言葉が重ねられるが、駄目だと思ったモノには「うざい」と一言だけで返される。どんなにお金をかけたものであろうと、知名度があろうが、容赦ない。一刀両断。

最初にその判断に触れたとき、何故彼女がそう感じるのか、何が彼女にそう感じさせるのかを知ろうとし、言葉にしようとした。でも、直接彼女に質問しても「だって、うざいじゃないですか~」の一言で深彫りすることすら出来なかった。そのうちに、私が何かを見せる、彼女が「うざい」か「うざくない」かの2択の判断をする、私が対策や対応を考えるというワークフローが出来上がっていった。彼女に質問しても理由は分からない。でもその直感的な判断は身近の誰にもない特性だった。得難い逸材だ。

Ridualは今でこそ、ページ間のリンクやリソース関係のみを扱っているが、当初はページ内のデザインパーツにも踏み込んでいた。最近はCSSで書かれることも多くはなっているが、ページ内のレイアウトは基本的にはTableタグで書かれるのが主流だ。そのレイアウトのパターンから配置するリソース、更にはそのリンクやformタグ等、様々なHTMLの機能要素をよく使われる単位でまとめて「ユニット」に再編成して、サイト構造を記述できるようにした。

まぁそこそこの記述は可能で、それなりの形にはなったと思っていた。サイトを開発する際、ソースを見るまえに、tableがどうのような形に配置されているのか等を一目瞭然の姿にした。どんな絵が使われていようと小さなアイコンで、そこに絵があることだけを表示したので、純粋に構造だけを把握できた。更にその構造自体をコピーペーストできたので、複製ベースのサイト構成はまぁまぁ楽だったと今でも思っている。但し、これはまだDreamweaver等でもtemplate機能がまだ整備されていない時代の話。

ところが、こうのようなHTML機能をブロックのように扱うには致命的な問題があった。一つは新規に作成する場合はまだ良いが、既存のサイトをこの世界に持ち込むことの困難さ。HTMLコードをこのユニットに翻訳してやる必要があった。もう一つは、1ページを作成するのに必要なユニットの数が半端なものではなかったこと。

後者は、その「彼女」に一言で切り捨てられる。うざい。時間もコストもかけている。ない知恵絞って泣きながら実装してきたものである。数分使って、この一言。チクショウと思って聞きなおしても、「だって、うざいじゃないですか」、と理由を考えるのも”うざそう”に笑う。当時のRidualは1ページに数十のユニットが乗るようにしてサイトを作って行く。操作する人間の限界から考えると50ページが上限だったかもしれない。どのリソースがどのページにリンクしているか等、分かり易くはあったが、こんな感じでサイトは作りたくない…そんな直感がうざいと言わせた、と理解した。

悔しかったし、なんとか見返してやりたくて色々と考えた。上司からの課題といった種類のものではない。自分よりも二回り近く年下の娘の一言が相手である。真剣だった。何故こうした構造で作ろうとしているかとか山ほどの言葉を並べる自信はあった。でも、彼女が使いたいと思わなければ、多分世に出しても無理だと直感的に感じとった。彼女の「うざい」という言葉が、これからのWebサイトやWebアプリケーションの大きな評価軸になると予感した。うざいサイトは敬遠される、うざいアプリは使われず朽ちていく。

で、捨てた。ページ内に関わる「ユニット」を事実上全てボツにした。残されたのは、ページ関係を示すページ,ゾーン,Url,コメント、そしてリンク。それまで私がやってきたことは、イメージユニット,フォームユニットやレイアウトユニットと言った画面内の機能のユニット化であった。理論的に綺麗に作ったと思っていた24個のユニット。その多くがが一言で「(意味のある)無駄」になった。

決断時は脱力感があった。今までの苦労が報われない気が少しした。でも今は、英断だったんだと感じている。自分がどう考えたかに固執せず、ユーザが使いたいと思うかに焦点を移した。なんだ、Webサイトと同じじゃないか。その結果、Ridualは「解析ツール」としての力を手に入れることになる。設計図を描く段から、解析まで1つのツールで見渡せる。それこそがやりたかったことだ。そしてその後ダウンローダも実装され、今やURLを入力すれば他人のサイトがそのままコピーできて、自動でサイトマップまで作れるようになっている。Flashを含むサイトを解析して、そのサイト自身が提供するサイトマップとほぼ同じものをRidualが表示したとき、背筋にゾクっと来た。Ridualは、削ったが故に広がった。なんだか逆説的で面白い。

Ridual開発記が及びもしない深みがある言葉を。ニューヨーク大学リハビリセンターの壁に刻まれている作者不詳の詩;

大きな事を成し遂げようと力を求めたのに、

   慎み深く従順であるようにと弱さを与えられた。

 

偉大なことができるようにと健康を求めたのに、

   良い事をするようにと病を与えられた。

 

幸せになろうとして富を求めたのに、

   賢明であるようにと貧しさを与えられた。

 

人からの賞賛を得ようと権力を求めたのに、

   神の前にひざまずくようにと無力を与えられた。

 

人生を楽しもうとあらゆるものを求めたのに、

   何事をも喜ぶようにとひとつの命を与えられた。

 

求めたものはなに一つとして与えられなかったが、願いはすべて聞き届けられた。私はあらゆる人の中でもっとも豊かに祝福されたのだ。

以上。/mitsui

ps.

その彼女は今は産休中。ある意味この世で一番「うざい」仕事、子育て中:-)

子育てほど、求めるものと得られるもののギャップが大きなものもないかもしれない。我家では言うことはさっぱり聞かなくなったが、それでも家族と共にいると喜びがある。さて彼女は?

 

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