コラム No. 35

Webの目に見える最大の利点は何か。人によって答えは違うだろうが、私にとっては情報へのアクセススピード。ここが根幹に感じるから、Webサイトが増えるたびに議論される、「中抜き」論は異論なく受け入れられる。様々な情報伝達の、ただ情報を伝達するだけの層が薄くなる現象。お客さんの声を、色んなモノを通さずに、ダイレクトに本当に必要な部署や個人が受け取れるということ。

だからサイト設計を行うときは、どんなニーズに対してどんなアクセス経路を用意するかが最大の関心事。勿論見た目上でのアクセスし易いインターフェースの大切さを軽視する気はない。けれど、根幹の部分が継ぎはぎだらけで、情報の流れを一目で見れない状況では、見た目をどんなに頑張っても、限界が近いと思う。

だからRidualは、どんな情報(コンテンツ)をどんな順序に並べるかだけを記述する。それがやりたかった。そうやってサイトの流れができてから、グラフィックデザインに着手する。そうした流れは、Illustratorでサイトマップを作る人も、インスピレーションで作り始める人もマインドは同じだろう。

ここで最近、壁を感じている。コンテンツの順序を考える際に、大前提にしている事が揺らいでいる気がしている。何を最大の前提にしているのか。それは「”本人”が操作すること」。その情報をアクセスしている人、その情報を必要とし、活用する本人、その人がどう考えてどう行動するかを考えている。間違っても代理の人が行うことは考えていない。代理の人に同じようなマインドが乗り移っていればまだ良いけれど、ただ仕事を振られました、という人では明らかに行動パターンが違ってくると思っている。

情報探索型のサイトであれば、結果は同じようなものかもしれない。けれど、処理系のWebアプリケーションに近づくほど差が出るだろう。例えば、グループウェア。会議室の予約など、今まで自席を離れ特定の場所まで移動して所定の紙に何かを書く…といった作業が必要だったのに、それが自席でキー操作だけでできるようになる。しかし、運用してみると、実際にその入力を本人が行わなかったりする。結果は、会議室の予約に、セクレタリー的な人の名前が延々と続いて、結局誰が何のために使うのか分からない。

人間は最高のインターフェースである。「おい」だけで、お茶や書類の準備などを識別して用意できるデバイスは他にない。しかし、そこにコストをかけないで、或いはより高度な情報処理に人間を使おうよ、というのがWebのコンセプトだと思う。しかし、人は楽な方へと流れる。「おい」で済むのであれば、わざわざブラウザで何ページかを繰って情報入力などはしない。偉くなった順から、この流れに乗る。

しかも、こうしたシステムの導入には、そうした「偉いさん」が権限を持って吟味する。どう考えても、この場にいる人は自分でこうした操作をしないだろうと思われる方々に囲まれた場で、提案する時は自分の存在意義を考え込んでしまう。決して使われないものを、決して使わない人に説明すること程空しいものはない。

こうしたズレの原因は何だろう。人間の性質のせいにしてしまっては話が進まない。デザイナの端くれとしては、やはりインターフェースの問題として捉えたい。今のインターフェースが分かりにくいから、この人たちは自分で操作することを避けるのか。もう少し情報へのアクセスがシンプルなら、この人たちでも自分で操作してくれるだろうか。

ここがチャレンジのしどころである。しかし、始める前から諦めも頭の中によぎる。どんなに良いインターフェースを作っても、結局触ってもらえないのではないだろうか。結局机上の議論だけで、良い悪いを評価されて決まっていくのではないだろうか。

多分泣き言を言うには早すぎるのだろう、パソコンが一人一台になる前にも、今の状況を見据えて絶望的に見える説得を長年続けてきた先輩方が居るのだから。どうせ聞いて貰えない、どうせ触ってもらえないと愚痴を言っても何も状況は改善されない。良いインターフェースを目指す道は遠い。

もう一つ気になっていることがある。最近自分でも少し戸惑っているのだが、自分で予約なり処理ができるようになったことで、自分の雑用が増えた気がしていることだ。単純に他の人(特にその作業で利益を上げる人達)がやるべき仕事の一部をやらされているような気分。

アプリケーションとしての出来はよいのだろう。情報入力もそんなにストレスを感じないように出来ている。でも、塵も積もれば。少しの情報処理のために費やされる時間が総計として増加している気がする。Webで処理できるようにして、その部署は楽になったかもしれないが、実際に使う側の処理が増えているようなケース。ただ仕事を他人に投げただけ。はっきり言えば「中抜け」されるべき「中」を太らせたようなケース。

こうした問題や、先の権限者の使用状況の問題には、実は共通点がある。それは業務など、処理のレベルよりも一つ上のレベルに問題がある可能性があることだ。例えば一つのプロジェクトを起こすのに必要な書類が複数あって、それらに毎回同じ情報を記入しなければならないようなもの。入力は一回で、後は自動に処理することは技術的には難しくない。けれど一枚にまとめて申請できるようにする方法もある。こうした問題は、多分システムだけでは無理で業務改革とかのレベルまで行かないと、解決したことにはならないケースが出てくる。

実際、コンテンツの流れを描きながら、実はこれって業務フローじゃないかと思わされることは多い。同時に、こんなのは、業務を担当している人達でまず用意して欲しいなぁ、とも。更に、根本的な解決をするには、Web構築ではない話が必要だったりして、それはデザイナに与えられている職務を超えている場合が多い。

Webは情報経路としては地位を確立しつつある。今度は活用経路としての方向に向かっている。ブラウザが単なる情報の出口ではなく、情報の入り口や、加工の窓口になる。それは今更強調するまでもない話だろうけれど、今後はもっと顕著になるだろう。そうした状況では、デザイナは、コンサルやエンジニアの領域に踏み込まねばならず、エンジニアもデザイナやコンサルの領域に手を出さざるを得なくなる。

Webは、情報へのアクセススピードを加速させ、次は個々人の職務内容を超えるスピードを加速させつつあるのかもしれない。Webが壊しているのは、時間や空間といった壁だけではなくなってきている。

以上。/mitsui

ps.

Ridual#54には、デジハリセミナーへの参加者へのお礼として仕掛けがしてあります。lib/sp/Ridual.jar が含まれていて、これをlib/Ridual.jarと交換すると、保存可能ページ数が100から200になります。それ以外は全く同じです。1ヶ月たったので、明かしても不義理にならないと判断して公開します。

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